2025年7月に開催したACEオフサイト・ミーティングで、JTBグループの障害者活躍支援について話していただきましたので、その一部をご紹介します。

JTBのDEIB実践
「旅行会社」というイメージを超えて、今やJTBは「交流創造事業」を核に、地域・企業・個人の課題解決に取り組む総合ソリューション企業へと進化しています。ツーリズム事業を基盤に、エリアソリューション事業(地域支援)とビジネスソリューション事業(法人支援)を展開し、国内外に広がるネットワークと人財力を活かして、持続可能な社会の実現を目指しています。
※JTBグループでは、「人材」ではなく「財(たから)」と表し、人を大切にする思いを表しています。
その中核にあるのが、DEIB(Diversity, Equity, Inclusion & Belonging)の考え方です。
(参考: https://www.jtbcorp.jp/jp/sustainability/deib/)
JTBは「違いを価値に、世界をつなぐ」というステートメントのもと、障害者雇用、ジェンダー、ワークスタイル、キャリア開発など、5つの強化テーマを掲げて取り組みを推進しています。特に障害者雇用においては、グループ全体で約270名の障害のある社員が活躍しており、特例子会社「JTBデータサービス(以下:JDS)」がその支援の中核を担っています。
JDSは32年の歴史を持ち、採用支援から定着支援、障害理解セミナー、サテライトオフィスの提供まで、きめ細やかなサービスを展開。採用段階では、面接アドバイスやマニュアル共有を通じて各社の採用担当を支援し、入社後は「サポーター社員」制度や個別面談を通じて、職場での安心感と定着を促進しています。
また、JTBグループでは、障害者雇用に関する社内イベント「チャレンジドサミット」を毎年開催。障害のある社員が登壇し、リアルな声を届ける座談会やトークセッションを通じて、社内の意識改革を促しています。さらに、他業界の特例子会社との連携によるセッションも実施し、業界を越えた学びと刺激を得る場となっています。
JTBのDEIB推進は、制度整備だけでなく「人の力」による実践が特徴です。障害者の活躍支援を通じて、誰もが働きやすく、誰もが価値を発揮できる組織づくりを目指します。
社員の痛みが社会を変える力に:JTB『ゆにとり』誕生の舞台裏

JTBが新たに立ち上げた「UniTri(ゆにとり)」は、ユニバーサルツーリズムの理念を
体現する革新的なサービスです。
アトピー、喘息、発達障害など「外からは見えにくい疾患・障害」のある方やその家族が、安心して旅を楽しめる社会の実現を目指しています。
発案者の社員自身がアトピーの当事者であり、発達障害のある家族を持つことから、旅行中に感じた「配慮の不足」や「伝わらないもどかしさ」が事業の原点となりました。浴衣の糊付け、食事時間の柔軟性、偏食への対応など、細やかなニーズに応える仕組みが必要だと痛感したそうです。
ゆにとりは、①コミュニティ形成(ゆにとりアプリ)と②行動変容支援(ゆにとり研修)の二本柱で構成されています。
① ゆにとりアプリ
疾患や障害のある方やその家族が、旅先や日常生活の悩みを共有・相談できる無料アプリ。掲示板形式で情報交換ができ、柔軟な対応が可能な宿泊施設の紹介も掲載。実証実験を経て、当事者の声を反映した設計が高く評価されています。
② ゆにとり研修
企業や観光事業者向けに、「見えにくい困りごと」に気づく視点を養うプログラム。EQ診断による行動傾向の可視化、当事者の声を反映したワークショップ、動画教材による反転学習など、多層的なアプローチで「知って終わり」にしない研修を実現しています。社内向け(ダイバーシティ)と社外向け(ホスピタリティ)に分かれ、目的に応じたカスタマイズも可能です。
ゆにとりは、社員の“Pain(痛み)”から生まれた事業であり、JTBの「人をつなぐ力」が形になった象徴的な取り組みです。観光業界における真のユニバーサルツーリズムの実現に向けて、今後の展開が大いに期待されます。
ユニバーサルツーリズムの新規事業『UniTri~ゆにとり~』_.pdf
他にも、JTBでは「リモートコンシェルジュ 手話通訳付専門デスク」も展開しています。聴覚障害のあるお客様がオンラインで旅行相談・予約できる仕組みを整備し、アクセシビリティの向上にも力を入れています。(詳細はこちら: https://stores.jtb.co.jp/cc-shuwa)
JTBの取り組みを通じて見えてくるのは、真のインクルーシブな社会の実現には、制度や仕組みだけでなく「当事者の声」や「現場の共感力」が不可欠だということです。
社員一人ひとりの体験や痛みから生まれたゆにとりのような革新的なサービスは、まさに「違いを価値に変える」JTBの理念が具現化された成果といえるでしょう。見えない困りごとに寄り添う姿勢は、真のインクルーシブな社会の実現への一歩になるでしょう。



