自らに制限をかけず、チャレンジして成長する ACEアワード受賞
KDDI株式会社 菊武 由美子さんインタビュー

KDDI菊武さん横顔

音声機能障害、国の指定難病である高安動脈炎がありながらも、営業担当、代理店と円滑にコミュニケーションを取り課題解決を図るために、自らコーチングやカウンセリングの学校に通い、3つの民間コーチング資格とカウンセリングのプロ資格を取得。同じ境遇の人を励ましたいと、口唇口蓋裂をテーマにした絵本「神様のプレゼント」 を出版する等、社会的活動にも積極的にチャレンジしている活動が評価され2018年度ACEアワード特別賞を受賞されたKDDI株式会社 コンシューマ営業本部の菊武 由美子(きくたけ ゆみこ)さんに普段のお仕事や自身の成長についてお話をお聞きしました。(以下、敬称略)

自ら制限をかけず、アウトプットを出すことで次なる成長へつなげる
現在は、どのようなお仕事をされているのですか?
菊武:
家電量販店内のau販売店に勤務するスタッフの労務管理を行なっています。また、ヒアリングシートをもとに情報セキュリティー等のコンプライアンス違反になっていないか毎月チェックをしています。

障害がありながらお仕事をするにあたり、なにか苦労されることはありますか?それをどのように克服されていますか?
菊武:
一番苦労するのは、合併症で右耳があまりよく聞こえないので、周囲の会話が聞き取れない場合があることです。静かな環境の中、少人数で、口の動きを見ながら会話できる時はいいのですが、実際のビジネスの現場は、隣の部署の会話や電話の声があり、また最近はマスクをしている人も多く、内容の把握が難しいこともあります。
どう克服するか、それはもう事前の自己開示につきます。右耳があまり聞こえないので、聞き返しが多かったり、返答が的外れだった場合は、もしかしたら聞こえてなかったかもと思っていただけるとありがたいと、割と早い時期に同僚や関係者に伝えておくことです。そうすると、打ち合わせでは右端の席に座らせてもらえたり、周囲の人も気遣ってくれて「どの席がいいですか?」と最初に声をかけてくれます。子供の頃は、自分の発音がコンプレックスで、相手に聞き返されることが怖かった時期もありましたが、自らに制限をかけてはいけない、小さなことかもしれませんが、ビジネスの現場で限られた時間でチーム・組織としてパフォーマンスを出していく上では自己開示は非常に大事なことです。

高安動脈炎もある程度落ちついてから入社しましたが、だるさや微熱などの症状で始まる病気なので、診断がつく前は、それが長引くとなまけているのではないか、さぼっているんじゃないか、そんな状態は誰だってあるよと分かってもらえない時期がありました。高安動脈炎と分かった時は病気だというショックよりも、診断がついてほっとしたという気持ちもありました。患者会では、自分もどこまで病気を説明するか迷うけど、周りも気兼ねして、どこまで聞いていいか分からないという話をよく聞きます。そんな中、当時の上司のありがたかった言葉が、「具合が悪くつらい時は遠慮せずに言ってね。我慢して頑張ろうって思わないで。その勇気を持っていると思うから」でした。自分の体調のことをいつでも言える安心感、信頼されているんだ、対等のパートナーとして見てもらっていると嬉しくなりました。
病気の性質上、朝は体調が優れないことがありますが、時差出勤をさせてもらったり、一部の業務を同僚にお願いして、本来自分がやるべき仕事に専念できる環境にしてもらえました。
体の調子が戻ってくるのは、起きてから3時間後なので、大事な仕事が午前中にある時には少しでも早起きして仕事ができる調子に整えて出勤します。自分のパフォーマンスをあげるためには何ができるかと常に自分に問いかけ、自分を制限するのではなくこうすればできると挑戦することを心がけています。

ACEアワード受賞の一つになっていますが、コーチングやカウンセリングの学校に通い資格を取得されました。こればビジネスにどのように役立っていますか?
菊武:
一時期いろんなことに行き詰まっていて、なんとか状況を打開したいと思っていました。そんな時に会社でコーチングの研修を受ける機会があり、これだと思いました。会社では部門や職種の違う多くの同僚とやりとりが必要です。互いの専門性や経験年数が違う中、どうやってビジネスに必要な情報を引き出し次工程につなげるのかが重要になります。コーチングでは、傾聴、質問力、相手の状態に合わせて対応を変えていくことなどを学びました。それを実践すると職場で相手から公正明大に情報を引き出せるようになり、それらを利用して期日通りにアウトプットを出せるようになりました。アウトプットを出していかないと自分のブラッシュアップができません。成果を出すことで次の伸び代が見えてきます。

いじわるをされてもその子に優しく、それが両親の教育方針
自らの体験を綴った絵本「神様のプレゼント」を出版されました。どういった想いから出版にいたったのですか?
菊武:
コーチングを学ぶ中で自分の目標を話しているうちに自分が社会に貢献できることはなんだろうと考えました。それは、ハンディがある方を勇気付ける活動だと思いました。そしてその勇気を最初に私にくれたのは両親でした。両親の教育方針を少しでも多くの方々に知っていただきたかったのです。逆境はいろんな形で子供たちに訪れます。それを乗り越える力を育んであげてほしい、それができるのはお父さん、お母さんなのです。

主人公の女の子が友達からいじわるをされても、「その子に優しくしてあげなさい、いつかその子もわかってくれるから」というお父さんの言葉が印象的でした。
菊武:
ストーリーは実話です。障害があったけど人に優しくして、いろんなことに挑戦する、それを支えてくれたのが両親でした。

神様のプレゼントと電子書籍

神様のプレゼント

本ができあがって手元に届いた時は、どう思われました。
菊武:
とても嬉しかったです。私は子供が産めなかったのですが、絵本の中で主人公の美優(みゆう)ちゃんという子が生きて成長していくところが我が子を世の中に送り出したような、そんな気持ちになりました。
仕事でうまくいかなかった時に読み返して、自分の原点に戻ることができます。心が折れそうなことをされた人にも、その人を遠ざけるのではなくて、諦めずにぶつかっていく、そうすればきっとわかってくれる、その行動力と粘り強さが菊武さんだよね、と上司から言われてこともありますね。

絵本「神様のプレゼント」が電子書籍でも読めるようになりましたね。
菊武:
絵本として具現化する前から電子書籍で多くの人に届けられたらとずっと思っていました。昨今、読みたい本をタイムリーに書店や図書館で手にできる機会は少ないです。電子書籍ならダウンロードしていつでも手に入りますし、持ち歩くこともできます。最近は大画面の携帯端末もあり、紙芝居のように幼稚園や小学校で読み聞かせることもできます。子供は、良くも悪くも素直ですよね。「なになにちゃん、どうしてあんな風になっているの?」とダイレクトに聞いたりします。そんな時期だからこそ、病気や障害が特別なことじゃないと、この絵本を通して伝えてもらえたら嬉しいです。
医療関係者、福祉関係者、子育て中のお父さん、お母さん、何か悩んでいる人がいたら、そんな方にも読んでいただけたら幸いです。

全国の頑張っている仲間にもっとスポットライトを!
2018年のACEフォーラムでACEアワード特別賞を受賞されました。率直な感想をお聞かせください。
菊武:
身にあまる光栄で、私がいただいていいのかと最初は思いました。受賞理由を聞かせていただいて、励みになりとても嬉しかったです。でも決して賞がゴールではなく、むしろスタートだと思いました。障害がある方々が自分らしく生きていく、その上で少しでもお役に立てる仕事をこれからもしていかなくては、それが私のライフワークです。

ACEのような団体の活動をどう思われますか。期待や要望もお聞かせください。
菊武:
大変にありがたい活動だと思います。いい仕事をしたいという想いは障害の有る無しは関係がありません。全国のがんばっている仲間にもっともっとスポットをあてて、社会に紹介していただきたいです。
ACEフォーラムの基調講演で熊谷先生が、障がい者ががんばって健常者に近付くのではなく、健常者の方が歩み寄って相互作用でよりよい社会を目指してくというお話がありました。大企業だけではなく、社会全体で同様の活動をしていけたらと思います。中小企業で働いている障がい者にもスポットライトをあてていただいて、社会全体の波をこれからも起こしていただきたいですね。

菊武さんと取材に同席されたACE会員のKDDI株式会社の手塚さん

菊武さんと取材に同席されたACE会員のKDDI株式会社の手塚さん

神様のプレゼント 文芸社
さく:菊武由美子/え:有川朋子
https://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-19502-5.jsp
 

文・写真:栗原 進