一般社団法人企業アクセシビリティ・コンソーシアム(以下、ACE)会員企業の合同企画として、障害のある大学生を対象にしたインターンシップを、2018年より開催しています。就業理解や自己の強みを認識するキャリアセミナーとも連動していることが特徴で、大学生は、ACEと繋がることで業種の異なる様々な企業のインターンシップに複数参加することができ、また企業側もACEを窓口として日本中の多くの大学とコンタクトすることが可能です。
オンラインでインターンシップ・プログラムを実施したパナソニック株式会社(以下、パナソニック) リクルート&キャリアクリエイトセンター 多様性採用推進室の香山理恵子(こうやま りえこ)さんにお話をお聞きしました。
ACE会員企業共同で実施するACEインターンシップにどのような意義があると感じていらっしゃいますか?
香山 企業のホームページでインターンシップの告知をしてもなかなか学生さんに届きません。ACEインターンシップは、大学のキャリア支援センター経由で大学の職員や先生方から直接学生にお声がけいただけるメリットがあります。学生さんも、通常であれば自分の興味ある業界や企業のことしか調べません。ACEインターンシップでは、様々な業界、企業のインターンシップの内容が一覧で見られるため、これまで知らなかった業界や企業を知る機会となります。それをきっかけに多くの企業と出会える魅力があると思います。
また、ACEインターンシップは、就職活動を始めた学生さんのみならず、1・2年生の参加もできます。大学3年生になって、ご両親や先生から突然「あなたの夢はなんですか?どこの企業に就職するのですか?」と迫られ、半年や一年で将来の方向性を決めなければならないのかと学生さんはとても戸惑うと思います。1・2年生の頃に企業のインターンシップに参加できれば、世の中にどんな仕事があり、どのような働き方があるか純粋な気持ちで知ることができると考えています。そうした意味でもとても意義のあるプログラムだと思っています。
自身のことを正しく伝える
本年度は、どのようなプログラムを実施されましたか?
香山 昨年は、コロナ禍でオンラインでの個別相談会を実施しましたが、今年はインターンシップ・プログラムの実施に戻しました。2部構成で、前半は「自分の強みに気づく」自己分析。これまでの自分を振返り、一番成果をあげたと感じる出来事や、自分をほめてあげたい出来事を思い出し、その成果が出せた時にどのよう取組みをしたのか、その行動パターンを思い出していただき、自己分析を行いました。
後半は、実際の仕事体験として、今年は人事の仕事の一部を体験してもらいました。障害のある方は、自身もこれまで多くの人のサポートを得てきたので、社会に出て自分も誰かのサポートをしたいということで、就労にあたり人事部門を希望される方が多いです。しかし、企業の人事は決して社員の困り事に寄り添うようサポートをしているわけではなく、むしろ会社の制度や施策を考えていくような戦略をたてる仕事や適正な人材を配置していくことが主な業務であることを理解してもらいます。
そこで、内定者の配属先をどうやって人事が決めていくのかを体験してもらいました。まず以下の3つの観点で面談内容などを整理します。
1.エントリーシートに書いた項目
2.採用選考面接で話した内容
3.採用選考面接や内定者フォローの場でぽろっとこぼした話
整理した観点を元に、人事が何を基準にしながら判断して配属先を決めていくのかを説明しました。
この体験を通じて、面接において遠慮して話さなかったこと、実はこうした障害があるのだけど隠していたことなどがあった場合、人事はその一覧表に書かれたような項目だけで応募者を判断することになるということを理解いただきました。知ってもらいたいことはきちんと話しておかないと企業の人には伝わらず、入社してからこんなはずじゃなかったということになります。前半の自己分析と合わせて、自身の伝えるべきことを就職活動に向けて準備しておきましょうというプログラムにしました。
また、毎年、障害のある社員がどのような仕事をしていますかと質問が多いので、知的財産管理の仕事をしている先輩社員から仕事の内容、パナソニックで働く面白さ等を話してもらう時間も設けました。
無意識の思い込みに気づかせる
プログラム策定にあたり、考慮されたことはありますか?
香山 人間は、障害のあるなしに関わらず誰もがアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)を持っていると思います。この社会の中でどういう生き方をしたいのか、それが思い込みや偏見によって阻害されていないか、もしそうした思い込みや偏見があるのであれば、それを他人とのコミュニケーションの中で引き出せるワークショップができないかと工夫をしました。自分の考えを話す、相手の話を聞く、そして自分はどうなのかと振り返る、そのプロセスを入れてプログラムを組み立てました。
オンライン開催のメリット、デメリットはありましたか?
香山 これまで遠方であったり、車いす利用のためインターンシップに参加できなかった方々に参加いただけたことが一番のメリットです。
一方で、異なる障害のある学生どうしのグループワークには難しさも感じました。障害の種別ごとに利用するツールや必要な配慮が変わってきます。オフィスで参加であれば、その場でサポートができますが、オンラインでは難しいですね。ただ、そんな環境でも、学生どうしが助け合う姿が見られました。発達障害のある学生さんで、指示はハッキリと端的に一文ずつ区切って言ってもらわないと理解しづらいという方がいました。すると別の学生さんが、私は遠回しの言い方ができないので私が聞いて端的にチャットに打ち込みますとサポートしてくれました。そうした助け合いが自然と生まれるのがグループワークの良い点だと思います。
考えて、発信する機会を増やす
来年以降のインターンシップに向けて何か気付きや学がありましたか?
香山 今回は、半日のプログラムでした。やはり、二日から三日間は実施したいですね。学生さんに考えてもらえる時間が少なかったです。こちらからの情報をインプットして終わりになってしまうのはもったいないので、やはり学生さんに考えてその結果を発信してもらう時間を増やしたいですね。例えば、三日間連続ではなくても、1週間に1回参加を1ヶ月間実施するなど。長期間のインターンシップとなるとその間に考える時間は増えると思いますが、課題も増えてしまうのと、他の企業のインターンシップに複数参加したい学生さんの負担にならないかなどまだまだ検討をしなければならないことがありますが、また来年実施できればと思います。最初に述べたように、1・2年生など就職活動に入る前の学生さんにたくさん参加してほしいですね。就職活動のためのインターンシップとは一線を画するプログラムができればと思っています。