障害のある社員と「ともに働く」を考えよう
第1回ACEミニフォーラムを日本航空で開催

登壇者の紹介、100人以上の参加者集まった会場の風景

一般社団法人企業アクセシビリティ・コンソーシアム(以下、ACE)の活動を、参画企業各社の社員へ知ってもらい、より理解を深めてもらうためのセミナー「ACEミニ・フォーラム」を開催しました。これは、合宿形式で行われたACEオフサイト・ミーティングの分科会から出たアイデアで、第1回目を日本航空株式会社(以下、JAL)本社にて、『障害のある社員と「ともに働く」を考えよう』をテーマに行いました。会場には、JALグループ各社より多くの社員が集い、障害がある社員の方々の話を聞き、その後グループに分かれて多様性のある環境で働くことについて語り合いました。

企業の成長に資する障がい者雇用を目指して
司会進行は、JAL人財戦略部 人財戦略グループでACE参画メンバーの田村知子さん、ACEの活動紹介は、同グループ長の池田卓司さんにより行われました。池田さんは、健常の選手を抑え義足選手として初めて「ドイツ王者」になった走り幅跳びのマルクス・レーム選手を例に、障害がありながらも健常の人々の中で突出した活躍ができることを紹介し、ACEの目指す「企業の成長に資するインクルーシブな社会の実現」について説明しました。JALは、2016年よりACEに参画。企業で働く障がい社員のためのロールモデルとなる社員を表彰するACEアワードを過去2回受賞しています。
続いてACEステアリング・コミッティー委員長である日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM) 人事ダイバーシティ企画担当部長の梅田恵さんより、日本IBMでのダイバーシティの取り組みが紹介されました。IBMは、創業(1911年)間もない1914年から障がい者雇用を積極的に行ってきました。日本IBMも1960年から障がい者雇用を行っています。ACE創設のきっかけとなる浅川智恵子IBM フェロー(IBMにおける最高技術職)による視覚障がい者のためのホームページ・リーダーの開発や現在取り組んでいるGPSとスマートフォンを活用した音声ナビゲーション・システムの事例などを紹介しました。また、日本IBMでは、7ヶ月に渡る学生向けのインターンシップを毎年実施。ITツールを活用した業務支援、職業体験による将来像の設計、2週間以上のOJT(On-the-Job Training、オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を行い、障害のある学生が働くことやキャリアについて具体的に考えることができる機会を提供しています。。

ともに働くを考える、そのヒントとは?
メインとなるトーク・セッションではJALグループで就業している障害がある社員の方3名に登壇いただき、日々の業務の取り組み方や職場でのコミュニケーション上の工夫について紹介し、参加した社員の皆さんと、障害のある社員もない社員も共に働きやすい職場についての考察を行いました。
写真左より、遠藤さん、山本さん、青木さん(写真左より、遠藤さん、山本さん、青木さん)

株式会社JALサンライト(以下、JALサンライト) 総務センター厚生グループの山本泰一さんは、常にプロ意識を持ってパーフェクトを目指すのがモットー。部下10人の組織を束ね、JAL社員の社会保険や福利厚生などを担当しています。起立や歩行に困難がある下肢障害があり、重いものを持ったり、階段の昇降に苦労があるが、それ以外は障害があることを感じることはなく、業務に関する深い知識、聴覚障害がある同僚とのコミュニケーションのため自ら手話を学ぶなどリーダーシップとマネージメント力で多くの社員の信頼を得ています。山本さんは、2017年にACEアワード特別賞を受賞しました。障害があると消極的になる、 管理職なんて無理ですよという人が多いが、社員のための会社なので、自分たちが運営しているんだと後輩の育成をしていきたいと話されました。

同給与グループの青木瑠奈さんは、聴覚障害があり補聴器を通しても人の声を認識するのは困難です。短い会話は、口の形や動きで内容を読み取ることができますが、長く複雑な話は難しく、そうした場合は、文字の記入・消去が繰り返しできるブギーボードや音声を認識しテキスト化するUDトークなどを活用しています。
それでも聴覚障害は、なかなか分かりにくい障害だと訴えます。補聴器を付けていると聴こえると誤解されたり、また声を出すことができると補聴器を付けていることやそもそも聴覚障害があることを気づいてもらえないことが多々あるそうです。
日常業務で一番苦労していることは、会議。UDトークでの文字変換がうまくいかない場合、確認したくても、すでに次の話題に進んでしまうことが多く、そうした苦労がある社員が会議に参加していることを意識してくれると嬉しいと話されました。

長年、JALの経理・財務部門に勤務されていた遠藤正義さんは、2018年のACEアワード受賞者です。現在は、JALグループ社員やその家族が航空機を利用する制度の運用や管理の業務に携わっています。目の病気で30代から徐々に視力をなくし、今は光のみ感じる程度とのことですが、読み上げソフトを活用してパソコンを使いこなしています。視力を失った当初は、白杖を持つことに抵抗があったものの、「障害の克服は受容から」と考えを切り替えることで前向きに対応できるようになったとのことです。
視覚障がい者は、地図を頭の中に描き、常に自分の位置を考えて行動する。階段で声をかけられると踏み外してしまうのは、数え上げた段数がわからなくなるため。描いた地図の通り歩かないと危険で、現在位置と到達点の関係を頭の中に描く習性が本能的に備わり、地理的な位置関係だけでなく、目標設定の際にも効果的に機能するとのことです。独り立ちすることが一番と思っていましたが、障害がある社員にとって周囲のサポートなくして仕事をすることは難しいので、上手に手助けを受けることが重要。周囲に対する感謝の気持ちが芽生え、チームワークで仕事を成し遂げることができるようになったと話されました。

トークセッションに登壇された3人の話を踏まえ、テーブル毎のグループに別れてディスカッションを行いました。それぞれのテーブルで誰もが働きやすい環境を作るために改善した方が良いこと、今後の仕事や日常生活で実践したいことについて話し合いが持たれました。参加した社員からは、普段障がいのある社員と話す機会がないので、どういう事がバリアになっているのかを知ることができ、自分に何ができるかを考えるきっかけになった、今回のセミナーのような機会が増え、身近な他者との相互理解が進むと、障がいの有無に関わらずより働きやすい環境になるのではないか、といった感想が寄せられるなど、参加者にとって気づきの多いフォーラムとなりました。

 

文・写真:栗原 進

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