一般社団法人企業アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE)では、会員企業による定例会を実施し、各活動内容の報告と共有、障がい者雇用関連の勉強会を行っています。3月11日に開催した定例会では、ACEアワード2018グランプリを受賞された積水ハウス株式会社の林 俊明さんに日々の仕事や今後の目標・活動についてご講演いただきました。
アイデアとサポートで仕事の困難を克服
私は、右上肢機能障害があり、右肩から指先まで自由に動かすことができませんが、仕事のみならず、ゴルフ、テニス、スノーボード、釣りとアクティブに活動しています。ゴルフは、右腕のリハビリになると父親の勧めで始めました。最初は、気が進まなかったのですが、会社に入ってお客様や同僚たちとの交流を深めることができ、今では父親に感謝しています。
子育ても妻にませきりではなく、互いにがんばっています。いや、私の方がたくさんしていますかね。(笑)
2002年に中途採用で積水ハウス株式会社に入社しました。その当時は、障がい者雇用の嘱託社員でしたが、配属された部署では設計補佐をやらせていただきました。2008年に一級建築士の資格を4回目のチャレンジで取得しました。学科の試験は受かるのですが、両手を使う製図の試験に苦しみました。そして、2013年に総合職に転換しました。当時はまだ、障害がある社員が一般社員になるキャリアアップ制度がありませんでしたが、「チャレンジしないか」「今までがんばってきたんだから、迷うことないだろ」と上司や同僚が声をかけてくれて挑戦しました。これまでの仕事を皆、見ていてくれてたんだとありがたく思いました。総合職に転換後、設計課のチームリーダーに就任。2016年には一級施工管理技士の資格も取得し、設計業務だけでなく、現場での打ち合わせや検査には積極的に参加してます。
業務で最も苦労するのは、図面を持ってお客様に説明する時です。現場では、A3やA2の大きめな図面で説明するのですが、右腕が不自由なため、図面を広げて説明するのが大変です。そこで、A4サイズに細分化した図面をホッチキスで留めて、自分が持ちやすいサイズにしました。重要なところは拡大したページで説明するなど工夫しました。
入社時は、あまり障害のことを同僚に伝えていませんでした。今では、お客様にご不便をかけるわけにはいかないので、自分ができないことは周りにサポートをお願いしています。例えば、屋外で風が強い日は、風でなびいてしまう図面を同僚に手で支えてもらったり、現場で高いところに登る必要がある時は、代わりに登ってもらいます。自分が入れないところは、スマートフォンのカメラで同時中継してもらい、状況を確認します。
ダイバーシティーならではの視点
現在、主に賃貸住宅の設計をしています。最近は、サービス付き高齢者向け住宅や障がい者グループホームの施工が増えてきています。自分の担当ではなくても、アドバイスを求められます。例えば、バスルームの適切な箇所に手すりがあるか、玄関の広さは補助器具を使っている人にも使いやすくなっているかなどです。それだけではなく、生活の変化となるアクセントを加える、リビングの入り口に物忘れ防止のためメモができるボードを設置する等のアドバイスを行っています。賃貸住宅設計においては、バリアフリー以外でも子育て家庭に配慮し、キッチンから子どもの遊び部屋が見渡せるように、流しと吊戸の間を開口にしたり、壁の代わりに格子にしたりと工夫しています。家の入り口のアプローチは、できるだけ長くとることで緩やかなスロープを確保することができます。車いす利用者や高齢者にとても優しい住宅になりますね。
ACEアワードで伝えたかったこと、それは感謝の想い!
ACEアワードにノミネートのお話をいただいた時、業務も忙しいし最初はお断りしようと思いました。でも思ったんです。これは日頃から言えなかったことを伝えるチャンスなのではないかと。
同じように障害があり、悩んでいる人がいたら、「がんばろう、くじけていてはダメだ」とメッセージを送れるのではないかと思いました。自分自身、がんばっている人の姿を見て励まされてきました。今度は、自分がそういう人間になろう、そう思ったんです。
また、小さい頃は、どうしてこんな体にしたんだと親を憎んだこともありました。やはり、子どもの頃は、どうしてもからかわれたりするんですよね。でも、今思うと、私より両親の方が辛かったのではないかと。うちの両親、すごかったんだなあ。もちろん憎んでいたばかりではなく、心では感謝していたんですけれど、それを言葉として伝えることは今までできていなかったです。改めて、両親に感謝の想いを伝えたい、でも面と向かってはなかなかいいづらい、ちょっと遠回しに発信できたらと、ACEアワードに応募しました。
障害がある子どもの親が愛情を持って育ててくれれば、その子どもはきっと愛情を持って返してくれます。それが、自分が親になってよく分かりました。本当に、両親には感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとう!
健常者の皆さんにお願いです。障がい者の苦労を知っていただけたら、特別扱いではなく、普通の人と同じにように接して、ちょっとした時にサポートいただけると嬉しいです。
そして、会社の同僚、友人へもこれまで支えてくれてありがとうと、この場を借りて伝えたいです。
社会のために貢献できる存在に
設計者である以上、入居者に喜んでいただける住宅の設計をこれからもしていきたいです。障害があるからできる仕事だけではなく、もっといろんなことに挑戦していきます。上司や同僚に相談して進めていけばいい、やらずに諦めることだけはしたくないと考えています。
今後は、障がい者同士の交流の場にも積極的に参加して、障がい者が活動しやすい社会のために貢献できるようにがんばっていきます。
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講演後、林さんの上司の方から「普段は、障害のことを忘れ、仕事をどんどん振ってしまう。それくらい仕事をこなし、グループ・メンバーの管理も立派に行って、支店内でも人気者です。」とビデオ・メッセージをいただきました。
ACEフォーラム 2018
2018年12月10日に開催れたACEフォーラムのダイジェスト映像です。ぜひご覧ください。
文・写真:栗原 進