昨年までは関西(大阪)・関東(東京)でそれぞれ開催していたACEキャリアセミナーをコロナ禍の影響を考慮し、2020年9月3日に初のオンラインで開催しました。オンラインでの開催は、障害のある方にとっては、物理的移動がなくなった分、これまでより参加しやすくなったというメリットもあり、35大学73名の学生に参加いただきました。今回は、九州、東海地区からも参加がありました。
キャリアセミナーは、先輩社員や企業の人事担当者から直接話を聞き、就職・就労に関する疑問や不安を解消し、学生・企業相互で理解を促進することを目的としています。企画・運営をACE会員企業のメンバーで行ない、下記の3つのアプローチで構成されています。
1.ストレングスファインダー(StrengthsFinder*)による診断結果「5つの強み」を参考に、自身の特性や可能性についてポジティブな関心を高める
2. ACE会員企業で実施するインターンシップを踏まえ、事前に「就業理解」を深める
3.障がいのある先輩社員や、他の障がいのある学生、人事系担当者等との交流を通じて、就職・就労に関する疑問や不安を解消し、理解と関心を高めると共に、ストレングスファインダーを通して「自己理解」を進め、今後のキャリア検討につなげる
上記アプローチのもと、参加した先輩社員の就労経験を聞き、2回のラウンド・テーブル(ストレングスファインダーの結果の考察による自己理解、就業理解)によるディスカッションを行いました。
先輩からのメッセージ:自己を知り、相互理解を進めよう!
今回は、ACE会員企業から障害のある12名の先輩社員に参加いただき、グループ・ディスカッションに入る前に、それぞれの経験や現仕事からの学びを共有いただきました。
“勇気を出して、やりたいことに飛び込んでみよう”
ブルームバーグL.P. 中込 安政(なかごみ やすまさ)さん
農業分野の投資家を目指していた中込さんは、現在ブルームバーグで財務データを収集し、世界中の投資家に有益な情報を届ける業務を行っています。自分の仕事で世界の金融市場が動く(かもしれない)というロマンを胸に日々活躍されています。
発達障害のある中込さんは、学生時代にアルバイトを長く続けることができず、社会に出るのがとても不安だったそうですが、社会に出て、失敗してもその反省をいかしてやり直せばなんでもできると実感されました。「勇気を出して、やりたいことに飛び込んでみよう。そして自分ができることをアピールしよう。」と学生たちにメッセージを送りました。
“仲間から頼りにされる存在に!”
積水ハウス株式会社 前村 佳苗(まえむら かなえ)さん
総合住宅研究所に勤務している前村さんは、同所の経理・総務・庶務を担当しています。先天性の内臓疾患のある前村さんは、体力の必要な仕事の回避や長期入院の際のケアなどの配慮を会社で受けています。
総務の仕事はなんでも屋さんに近い。多くの同僚から頼りにされることで高いモチベーションを保っています。
「職場での不安は、健常者より多いかもしれません。今日は、先輩社員に遠慮なくなんでも聞いてほしい。そして、自身の障害についてよく知り、それを周りに説明できるようにしておくことが重要です。」とメッセージされました。
“仲間と連携、互いを思いやる気持ちが大切”
中外製薬株式会社 設楽 武秀(したら たけひで)さん
聴覚障がい者のサッカー、フットサルの日本代表を目指す設楽さんは、仲間との連携や互いの思いやりを大切にするのがモットー。現在は、同社の社会貢献イベントの企画・運営、実施後の社内外広報活動を行う仕事をしています。また障がい者スポーツを広めるための冊子制作も行い、その活動の幅を広げています。
「障害があっても工夫や周りのサポートを受けることで、どんな仕事にもチャレンジできます。そのために、自分の障害を周りに理解してもらい、どんなサポートが欲しいのか正しく理解してもらうことが重要。」とメッセージをいただきました。
“ダイバーシティ人財の活躍を広めたい”
株式会社堀場製作所 中島 諒祐(なかじま りょうすけ)さん
自閉症スペクトラムがあり、コミュニケーションが苦手な中島さんは、人事部門で働くにあたり、日報の作成を行い上司やメンターに共有するなど、コミュニケーションの工夫をすることを日々心がけています。仕事のやりがいを感じるのは、やはり業務の完了報告をした際にかけてもらえる「ありがとう」の言葉。
「日々の業務を通して挑戦の機会があれば、積極的に取り組み自己の成長につなげ、ダイバーシティ人財の活躍を他の職場にも広げるために尽力したい。」と自身のコミットメントを学生にアピールされました。
“自分に負けない、ここまででいいという線引きは成長を阻害する”
積水ハウス株式会社 半田 未来(はんだ みく)さん
身体に機能障害がある半田さんは、経理・人事・庶務のエキスパート。会社に合理的配慮を求めるのは、責任ある仕事をしているのできちんとやりたいという想いから。「これができない」ではなく「こうならできる」が信条の半田さんは、自分のできることを周りに積極的に発信しています。
「言わないと伝わらないです。相手は、障害のことは聞きにくいと思っているかもしれません。」とメッセージされました。頼られる存在でありたい、そのためには自分に負けないこと。自ら、ここまででいいという線引きをすると、自分の成長を止めてしまうとアピールされました。
また、大学関係者を代表して、京都大学 学生総合支援センター 障害学生支援ルーム 准教授の村田 淳 様からも「ACEのキャリアセミナーは、障害のある学生にとって企業に聞きたいことを率直に伺える機会です。積極的に活用して、ここで得たものを今後の糧にしていただきたい。先輩社員のお話をお聞きして、企業に求められるのは、個人の立ち位置ではなく、周りの人との相互関係だと思いました。皆さんそれに言及されていて、プロフェッショナルだと思いました。仕事は自己完結しません。誰かと時間を共にします。就活とは、内定や就職先を得ることではなく、自分はどういう人間なのか、それを探すプロセスです。配慮とは、困っているから助けてではなく、自分の能力を発揮するためのものとの想いでこれからチャレンジしてください。」とメッセージをいただきました。
グループ・ディスカッション:不安が払拭され、就職のイメージがついた!
キャリアセミナー後半は、12のグループに分かれ、それぞれに先輩社員、ACE会員企業の人事担当者が加わり、オンライン上でグループ・ディスカッションを行いました。オンラインでの開催に、最初は緊張気味な学生でしたが、徐々に活発な意見交換ができるようになりました。
各企業から参加いただいた先輩社員は、溌剌といきいきと学生たちの質問に答え、障害についても臆することなくオープンに向き合う姿がとても印象的でした。自分たちの経験が学生たちの役に立ったと先輩社員にとっても高いモチベーションを抱くことができる貴重な機会になりました。
参加した学生から、下記の感想をいただきました。
・就職に関する自分の不安に対して、具体的な対策を提示してもらえました。
・同じ障害のある学生がどのように就活に向けて動いているかを知ることが出来たので大変有意義でした。
・先輩から実際に話を聞ける機会は大変貴重でした。
・少人数で多くの企業の具体的なお話が聞けて、障がい者雇用についてのイメージが明確になりました。
・採用担当の方からもお話を聞くことができ、具体的に就労について考えることができました。いろいろと悩みはありましたが、ほぼ解決することができました。
・自分の障害を理解して、周囲の人にきちんと伝えて知ってもらうことで、自分にとって働きやすい環境を整える大切さを学びました。
・近い特性を持っている方々と特性ならではの悩みを共有し、改善点を見つける機会は少ないので、有意義な時間を過ごせました。就職活動をする上で、実際にどのように社員の方が働いているのか、どのような配慮をしてもらっているのかに関する情報収集の仕方に困っていたので、アドバイスをいただけて良かったです。
セミナー翌週以降に、参加された学生は、キャリアセミナーでの学びを踏まえて、各社のインターンシップやオンライン相談会に臨まれました。
*StrengthsFinder 世論調査と組織コンサルティングの米国ギャラップ社が「人は自分の弱みを改善するよりも、自分の強みに意識を向けそれを活かすことで最大の能力を発揮する」という考え方に基づき開発したツール。Webサイト上で177個の質問に答えていくことで、自分の強みを知ることができる。