一般社団法人企業アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE)では、会員企業による定例会を実施し、各活動内容の報告と共有、障がい者雇用関連の勉強会を行っています。2021年7月13日にオンラインで開催した定例会にて、ブルームバーグ L.P.(以下、ブルームバーグ)の障がい者雇用の取り組み事例を紹介しました。事例は、ACE会員企業メンバーのブルームバーグ APAC HR部門の高橋弦也 氏によりご説明いただきました。
「他人事」を「自分事」に
創業者のマイケル・ブルームバーグ氏は、利益を社会に還元することを大切にし、社会貢献とボランティア活動は、ブルームバーグ文化の中核にあり、社員の就業時間内のボランティア活動への参画も推奨されています。一年間に25時間社員がボランティア活動を行うと会社がサポートしているNPO団体などの中から社員が選ぶ団体へ2500USDを寄付することができます。
また、個々の違いを大切にし、誰もが協働できるインクルーシブな企業文化が推進されています。社内に障がい者、LGBTとアライ、女性活躍、ワーキング・ファミリーに関するコミュニティーがあり、活動を行なっています。
障がい者に関しては、障害のある社員と彼らのチャレンジを自発的に支援したいとする有志の社員で構成されたTokyo Abilities Communityが2015年9月に発足しました。このコミュニティに参加する社員のみならず、会社全体として課題に対する意識を高め、共に支え合い、障害の有無にかかわらず全社員が最大限に能力を発揮できる環境の創出を目指しています。
「ダイバーシティの取り組みは、自分事の境界線の範囲を広げて、どこか遠い他人事だと思っていたことも自分事として受けとめていくこと」と語る高橋さん。パラリンピックに先駆けた障がい者スポーツの体験イベントや障害のある演奏家を招聘した音楽イベントなどを実施し、見て・聴いて・体験する場を多くの社員に提供することで、考えるきっかけを作られてきました。まずは障害の分野に触れて知ってもらう、そして理解し、自分の言葉で話せるようになることを目的にコミュニティ活動を行なっています。
「産学連携でガイドラインを策定
ブルームバーグは、慶應義塾大学 総合政策学部 塩田琴美 准教授のゼミと協業し、障害種別毎に安心して内定後・入社・導入期を過ごしてもらうための「人事・受入部署のガイドライン」策定を行いました。2021年4月より開始されたこのプロジェクトは、障害種別チーム(身体、視覚・聴覚、発達、精神)を作り、社員・学生とともに情報収集とガイドラインの策定を行いました。ブルームバーグ社員も人事部門他、マーケティング、ビジネス現場の社員、障害のある当事者と様々な職種、職域から参加されました。また、福祉を専門に研究する他大学の学生や、外部の複数の当事者へのヒアリングなど、多くの方の知見を取り入れるよう取り組まれました。
コロナ禍のため、学生・社員間の討議や発表は、すべてオンラインで行われました。
障がい者雇用に関するガイドラインを人事主導だけではなく、様々な方々の目線から策定できたのが多くの収穫と語る高橋さん。成果物となるガイドラインは、9月に実施するインターンシップ・プログラムでテスト利用を開始する予定。さらに、社内でアジア・パシフィック、そしてグローバルへの展開が予定されています。
「今回のプロジェクトで、参加したコミュニティメンバー社員の意識も随分と変わりました。学生に対してアドバイスをするということから、障がい者雇用に対する向き合い方が変化し、これまでは分からないことがあると人事に確認していましたが、自ら調べ理解して、自分の言葉で学生に説明できるようになりました。」(高橋氏)
「今回のプロジェクトで、はじめて障がい者雇用について知り、取り組んだ学生も多かったです。特に、プロジェクトのゴールとして正しい解や進め方もない中で、最初は四苦八苦していました。しかし、プロジェクトを通して、障がい者の方が社会で置かれている状況、障がい者の特性を生かしてよりよい働き方となるために企業側が抱える課題や取り組み、そして政策として必要な点などを単なる机上の学習に留まらず実践知として得られたと思います。
また、ブルームバーグさんや企業のみなさんとプロジェクトで関わりもち、多様な意見を聞くことができたことも、自分のキャリアを考える良い機会になったのではないかと感じています。」(塩田氏)
慶應義塾大学の学生もブルームバーグ社員からのアドバイスを受け、積極的に調査、分析した結果をガイドラインにまとめ発表を行なっていました。学生は社会人から、社員は学生から、相互に意見を交わすことから生まれる相乗効果にダイバーシティの意義が明確に体現されたプロジェクトとなりました。