障害のある大学生の修学支援・キャリア支援の現状
学生、大学、企業はどう連携していくべきか

一般社団法人企業アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE)では、会員企業による定例会を実施し、各活動内容の報告と共有、障がい者雇用関連の勉強会を行っています。2022年3月16日にオンラインで開催した定例会は、京都大学 学生総合支援センター・准教授 村田 淳 様をお迎えし、「障害のある大学生の修学支援・キャリア支援の現状」についてお話しいただき、ACE会員企業メンバーと意見交換会を行いました。村田先生は、同大学の障害学生支援ルーム・チーフコーディネーターとして障害のある学生をサポート、また文部科学省から事業採択を受けて活動している「高等教育アクセシビリティプラットフォーム (HEAP)」のディレクターも兼務されています。
障害のある学生の修学支援・キャリア支援の現状、大学で今どのようなことが起きているのか企業の担当者に知ってもらえる良い機会になると今回、村田先生にお話をいただきました。

大学における障害のある学生の現状とは?

2016年、障害者差別解消法の施行により、不当差別の禁止や合理的配慮の提供の義務化が定められました。これにより大学、企業の双方で様々な取り組みがなされてきましたが、まだまだ大学側、企業側、学生側のそれぞれに多くの課題があるのが現状です。
障害のある大学生の数は毎年増加傾向にあります。これは、障害者差別解消法の施行により、初等・中等教育の過程でも権利保障がより促進されるようになり、障害のある学生の進路選択の幅が広がってきたこと、また、高等教育機関の支援体制の変化など、社会としての変化が要因の一つとして考えられます。
しかし、日本全国で学んでいる障害のある大学生の割合は、全ての大学生の1.17%ほどです。例えば、アメリカではその割合は10%を超えます。アメリカでは日本の障害者差別解消法にあたる法律がおおよそ30年ほど前から存在しています。大学がどんなに門戸を開いても、初等・中等教育で権利保障が進んでいなければ、大学へ進学する障害のある学生の数は増えていきません。
それでも2016年の法律施行以降の新しい世代では、初等・中等教育や高等教育での権利保障が徐々に広がってきています。障がい学生の割合がアメリカのような数字になるにはまだまだ時間がかかるかもしれませんが、日本も数年間で3%、4%という数字になっていくころとは十分予想されます。お伝えしたいのは、今後企業の新卒採用のタイミングでも障害のある学生が増えてくるということです。大学入試の共通テストでも障害のある学生への配慮が行われています。大学を卒業すれば次は社会進出となるわけですから、採用する企業側も障がい者雇用のモデルを現状のものだけでなく、新たなモデルを検討していく必要も生じると思います。

また、大学に在籍している障害のある学生の種別割合も変わってきています。かつては、視覚障害・聴覚障害・肢体不自由が多くの割合を占めていました。現在は、内部障害や精神・発達障害の割合が顕著に増えています。発達障害のある学生に注目するとここ10年で70倍に増えています。これは初等・中等教育における権利保障の影響はもちろんですが、高等教育機関においてこのような障害に関するニーズが増加・顕在化しているということを如実に示していると言えるでしょう。

就職活動における課題

ACEの皆さんとの接点となる就職活動における課題を見ていきましょう。
就職活動は、障害のある学生にとっては複雑です。一般雇用か障がい者雇用かで悩むことも少なくありません。また就労支援機関や障害福祉サービスを利用するか、特に精神・発達障害のある学生は障害者手帳を取得した方がいいのか、自分にとって合理的配慮は必要なのか、一般雇用と比べて不利な条件はないのかなど多くのことを考慮しなければなりません。
身近でモデルケースを探すのも困難です。同じような障害種別、同じような分野、同じような地域で働いている障害のある社会人のモデルケースは見つけにくいです。もちろんすでに企業で働いている障害のある社員は一定数いらっしゃいます。しかし、その方々と現在の学生では就職活動をした環境が異なります。
支援関係者も多岐にわたり、上手に活用している学生とできていない学生との格差が広がっています。

学生や親御さんの誤解は、就職活動を主目的としていることです。就職活動は、社会への移行支援全体のごく一部です。就職活動の時期になって慌てては間に合わないこともあります。それまでの準備期に何をしてきたか、就職後にどのように定着していくのか、それが重要なのです。

障害のある学生はどこにいるのか?
企業は、彼らにアナウンスをしたい時、大学のどの部署に問い合わせるのか?
障害のある学生は、大学で支援先が見つからない場合、支援機関にどうアプローチするのか?
この解決には、地域単位でネットワークを形成することが大切と考えています。
ですから、企業の人事担当者が集うACEと大学関係者が意見交換して互いの考えを理解する場は必要です。
特にロールモデルは非常に重要と考えています。ACEアワード受賞者の活躍などをどう学生に届けていくか、これは我々の課題です。
学生は、大学にとっては教育の機会を確保する責任がある相手。言い方をかえれば、サービスを提供する対象者になります。しかし、企業で働くと立場は変わります。どのように支援を受けるのかだけを考えるのではなく、どういう選択肢やリソースを活用しながら能力を発揮できるかを考えていかねばなりません。

ACE会員との意見交換

村田先生の講演後、ACE会員からの質問や意見交換の一部をご紹介します。

−障害のある学生を支援するためのノウハウの共有ができていない、きちんとした障がい学生支援の担当者を置いている大学とそうでない大学があるように感じています。
村田
 大学ごとに温度差があるのは感じています。HEAPではそうした温度差をなくすことも目標の一つです。
初等・中等教育は、公立がほとんどで教育委員会が特別支援教育のスタンダードを担保しようとしています。しかし、高等教育、特に大学や短期大学となると私立がほとんどです。国や特定機関のガバナンスは効きづらくなります。
しかし、やはり障害者差別解消法の施行の影響は大きく、民間事業者も合理的配慮は努力義務から義務に変わることになりました。それができているかが高等教育機関の評価になりつつあります。今後、各大学での対応も変化していくと考えています。

−発達障害のある学生が就職するにあたっての課題、企業に求められるものは何でしょうか?
村田
 発達障害を一概にくくることはできず個別対応が必要と思われますが、例えば、コミュニケーションに課題がある人は、学生時代のアルバイトや課外活動の経験がない層が一定数います。企業では、コミュニケーションは必須で、協調性、チームワークが求められることも少なくありません。しかし、それは大多数の側の慣習で、発達障害特にASDの人たちは典型的と考えられるものとは違った慣習を持っています。どのようなアプローチ、指示系統で伝達すべきか考慮する必要があります。それくらいは分かるだろうと、曖昧で抽象的な指示ではなく、わかりやすく明示的に指示することが必要です。例えば、社内でチームワークよく働くには、アフターファイブの宴席や皆でランチに行って仲良くなるのが重要ということも、全ての人に通用するものではないと知るべきです。
様々な部署で経験を積ませ全体を知って仕事をアサインするのではなく、どういう仕事があってそれにどうマッチングさせていくかのジョブ型が発達障害のある人には効果的と思われます。

−ACEアワードでロールモデルを紹介することで、企業で働く人だけではなく、学生にとっても働くイメージができるように心がけています。ACEへの要望はありますか?
村田
 ACEの学との連携部会の皆様には、大学関係者の声をよく聞いていただいています。こちらのニーズをかなり取り入れていただいています。むしろ課題認識があるのは大学側で、そもそもACEの活動を知らない学生もいます。現在の活動をぜひ継続いただいて、そのリソースを提供していただけるとありがたいです。
できれば、1年生や2年生の学生が参加できる企業イベントがあるとありがたいです。早い段階から準備をしないと、就職が視界に入ってきてから考えるのでは遅い場合があります。早い段階で疑問を企業に投げ、働くイメージを持つことが大切だと思います。

今後ともACEでは、定例会や主催イベントでACE担当者と大学関係者が意見交換、情報交換できる場を積極的に設けていきます。

関連記事

  1. ACE 定例会レポート事例紹介
    ヤマトシステム開発株式会社 <…

  2. プレゼンテーションを行うインターンシップ生

    ACEインターンシップ・レポート
    相互承認で自己肯定感を育む<…

  3. 業界を知り、専門性を持って企業の戦力に!
    ACEインターンシ…

  4. ACEインターンシップ、合同キャリアセミナーについて説明をする濱田さん

    兵庫県巡回相談支援事業 講演会に参加

  5. 大切なのは相互理解、いい意味での図太さで前向きに!
    ACE合同キ…

  6. 定例会でLITALICO本間様の講演を聴講し、ASD体験シミュレータを体験

    ASD(自閉スペクトラム症)の非定型な視覚世界を体験
    ASD視…

アーカイブ